神経の図太い大沢にしては、珍しく動揺してしまっていた。
涙腺も決壊してしまったように泣きじゃくる日高を抱えて、大沢は部室のシャワールームに運び込んだ。
とりあえずは自分が着ていたTシャツでざっと拭ってやり、小水の汚れを洗い流す為に連れて来たのであったが――
ずっと泣き止まない日高に、自分が苛めてしまったような罪悪感を感じて(結果としてそうなのだが…)気まずい思いを味わっていた。
「ひ、日高…何かごめんな。着替えも俺のを貸すし、大丈夫だから……」
「…うっ、く…う…」
「シャワーで流したらさっぱりするさ。な、なぁ…」
「…ひっ、ひ…ぐぅ……」
何を言ってもこんな調子で、日高から返って来るのは嗚咽やしゃくり上げる声だけである。
これでは自分で洗い始めそうも無い――日高の自主的な行動を諦めた大沢は、汚れた靴と靴下を脱がせてやって床に転がした。
タオル代わりに日高の汚れを拭った自分のTシャツも放って、これらも纏めて洗うか捨てるかしなければいけないなと、後の処理を考える。
Tシャツは既に脱いでいるので、大沢は下のジャ-ジのみの濡れてもいい格好で、横一列に個室が並んでいるシャワールームの一室を開けて湯の準備をした。
そして本人の顔色を伺いながら、そっとシャワーの湯で日高の身体を流してやった。
もうこれ以上刺激しないように優しくタオルで洗っていく。
派手に立てていた日高の黄色の髪が、水分を吸ってぺたんと垂れ下がった。
毛先が目に入りそうだが、うぐうぐと泣くばかりでかき上げる事もしないので、代わりに大沢が後頭部に撫で上げておく。
その姿は、猫が風呂に入れられて、体を大きく見せていた毛がぺたんこになったような哀れな様子を連想させる。
頭から首、肩と、身体の上方からシャワーの水流が汗と土の汚れを流していく。
身体が温まったおかげか日高の震えは止まり、しゃくり上げる頻度も少しはましになってきたようだった。
湯にあたった肌が上気して、水流に打たれる胸の二つの突起は小さく立ち上がっている。
大沢が胸から脇腹にタオルを滑らせて洗うと、身を反らす日高の反応があった。どうもくすぐったいらしい。
泣かせた子を宥める気まずい空気の中、小さな反応でも返って来た事に大沢はほっと息をついた。
「だいぶ温かくなったな。きれいになったから、もう泣き止もうな…」
涙自体は止まっていたが、嗚咽は発作の癖がついてしまったようで治まらない。
呼吸が苦しそうな日高の背中を、大沢は洗うついでにタオルでさすってやった。
ふてぶてしさや虚勢が剥がれて、子供のように素直に世話をされている日高が何だか可愛く思えてきて、大沢は微苦笑を浮かべていた。
上半身を洗い終えて、次は一番汚れているだろう脚に移行しようとした頃になって、大沢はやっと変化に気付いた。
ストレスのかかる環境から一転、温かい湯で優しく洗われる行為に日高の身体が反応したのかもしれなかった。
本人はまだショック状態で虚ろに嗚咽を響かせており、自分でもその反応に気付いていないようである。
日高は悲しげに息を吐き、自身の隆起した中心部の熱を持て余して、ただもどかしそうに脚を摺り合わせているばかりだった。
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