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灰色の箱の中 1

 
  
 
  
   
 探している相手はすぐに見つかった。

 
 県でも有数の進学校であるこの学園では、生徒達は他校と比べてもとかく真面目な者が多い。

制服を着崩した格好や茶髪すら珍しく、黒髪のきっちりした格好の生徒がほとんどである。


 黒の学生服と黒い髪の集団の中、その派手な黄に染めた頭は、浮き立つように目立っていた。

禄に話した事もない生徒だったが、その大沢の記憶の中にも「派手な毛色の奴」という印象は残っていた。

声をかけても無視するように歩いていく相手に、大沢は駆け出していた。


 大沢は問題の日高章平を何度か職員室に呼び出していたが、その度に悉く逃げられていた。

今日こそは捕まえてやろうと放課後の校門付近を職員室の窓から探しており、帰って行く生徒達の中にその目立つ頭を見つけるやいなや、大沢は走って出て来たのだった。


「お~い、聞こえてないのか!お前うちのクラスの日高だろ? 話があったんで探してたんだ」

 大沢に背後から腕を掴まれると、鬱陶しそうにではあるが、やっとその生徒は振り返った。

教師や生徒達から腫れ物扱いの少年を大沢が強引に引き止めた事で、近くの生徒達も驚いたように振り返っていた。

目近に眺めてみても、染色の髪の毛先を立てた少年は態度や表情からしてふてぶてしく、学園の生徒達とは異質な存在として映る。

校内では日高の中学時代からの素行の悪さも噂されており、浮いているのはその外見だけではなかった。


 その睨みつける少年と緊迫する周囲の中で、ただ一人、大沢だけは呑気な様子である。

「お前、何回呼び出しても無視するもんだから。今日こそは、ちゃんと話を聞いてもらわんとな」

 掴まれた腕を払いのけようとして、日高がふいに眉をしかめる。 腕を掴んだ大沢の手が、逃がさないようにと反射的に力を加えていた。

大沢は学生時代はアマレスに打ち込み、現在でも柔道部の顧問を担当する等して鍛えている体育会系の人間である。

本人はそういった己の体格も馬鹿力も全く意識しておらず、力の加減を知らぬかのように笑顔で日高の腕を締め上げていたのだが――


 「…ってぇんだよ、離せっ!」

   「そんな事言っても、お前また逃げるからさぁ…」

     「……っ!……!!」


 罵り、足掻く日高を物ともせず、大きな荷物を運ぶかのように大沢がずるずると力任せに引き摺って行く。


 一時は、緊張した面持ちで固まっていた周囲の生徒達だったが、

(まぁ…あの大沢先生だったら、大丈夫だろう…)と妙な信頼の仕方で、遠ざかって行くその光景を見送ったのだった。



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