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灰色の箱の中 10

   
 
 
  
 次に日高が目覚めたのは、大沢が顧問をしている部室の部屋の中だった。

気がつくと見知らぬ個室に横たえられており、自分の物では無い少し大きめの衣服を着て、身体には毛布が掛かっている。

状況を思い返そうとするも、全身が重く疲労していて頭が働かなかった。


 日高は自分が寝ている部屋の周辺をぼんやりと見渡してみた。

ごちゃごちゃと乱雑に置かれている用具類から、体育関係の部であるような印象を受ける。

そして、周囲を巡る日高の目に、傍らに付き添うように座っていた大沢が映り込む。


(なんで、こいつがいるんだ……?)

 意識が混濁している日高の頭では、状況が把握できなかった。

大沢はというと目が覚めた日高の顔を覗き込み、顔を赤くしたり青くしたりで変化に忙しい。



「…………??」

 大沢は日高の身体の調子を気遣いながら、日高を部室に運んできた事や、毛布を宿直室より借りてきたのでここで休めばいいというような事を所々どもりながら話したが、その半分も日高には理解できなかった。


 ただ、大沢が差し出したペットボトルの水には喉が渇き切っていたので反応して、日高の口に運ばれると勢い良く飲み込んだ。

大沢は頭を持ち上げて飲ませてやり、日高の唇や喉に零れた水分をタオルで丁寧に拭った。


 細やかに世話を焼いてくる大沢に(こいつは何をしているのだろう)と疑問に思いながらも、日高の中ではそれ以上に疲労が勝っていた。

充分に水分をとって渇きが満足してしまうと、再び眠気が襲ってきて日高の瞼は重く塞がっていった。


「しばらく休んだらいい。 目が覚めたら送っていくから…」

 意識の遠くに聞こえる大沢の声に、日高は適当に頷いて眠りに沈んでいった。

大沢は日高の毛布を掛け直すと、その傍らに座ってまた長いこと寝顔を見守っていた。
  


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