「ん~…また日高はサボリかぁ?」
大沢義明は出席簿を確認しながら、自分の受け持ちである生徒達に問いかけた。
教室は沈黙するばかりで、その問いに対しての返答は無い。
大沢は昨年この学園に転任してきた数学教師であり、この春からは2年生の教室の担任となっていた。
短髪で体格が良く、いつもジャージを愛用している事もあって、数学というより体育教員のように見える外見をしている。
性格は陽気だが大雑把でガサツなところがあって、繊細な年頃の女子生徒には毛嫌いされそうでもある。
だが、この学園は男子校であるため、男子生徒達からは乱雑な性格を呆れられる事はあったが、年若く話しやすい大沢は好かれている類の教師だった。
だから、問いかけに対しての教室の気まずいような沈黙は、大沢に向けられたものではない。
問われた内容、日高という生徒に向けられたものだった。
普段なら大沢に対してふざけたり、親しげな返事を返す生徒達だったが、大沢は粗雑な性格故に、いつもと違う教室の反応を気にする事も無く出席確認の続きを始めた。
教室の空気もまた徐々に普段の騒がしく明るい雰囲気を取り戻して、生徒達の間に軽口や無駄話が交わされていた。
しかし、いくら粗雑といえども、大沢の頭の中では無断欠席の多い日高という生徒の出席日数の事は計算されており、このままいけば進級も危うい事位は把握していた。
明るく生徒達と話をしながらも、そのクラスの問題児の事は大沢の脳裏に気がかりとして残っていた。