結局、私の想定は全て外れていたのである。
男の望みは金銭ではなかった。
ぎこちない男の手が私の方へ伸びてきた時、すぐには何が起こっているか把握できなかったが――
つまり――男は、私の嗜好に気付いていたのだろう。
私が異性には興味無く、同性の者との付き合いがある事を、長年身近で仕えている使用人なら容易に気付く事ができたのかもしれない。
他人と異なる自分の嗜好を周囲に知られないよう、厳重に隠していた訳でも無い。 いちいち説明して回る事もしなかったが。
……それで、こいつは何がしたいのだろう?
こうして時間を無駄にとられる事に、私は焦れる思いがしてきた。
男は寝台の横に跪いているようで、ゴソゴソと動く気配はしていたが、それから目立った動きは見せなかった。
こちらが目覚めるのを恐れて男は慎重になっているのかもしれないが、どうやら私を見下ろしながら髪に触れたりしているだけのようだ。
そっと触れる男の指先は、恐れか緊張のためかは知らないが微かに震えているようだった。
若い使用人の真意を探るように、私は未だ眠った振りを通して動かないままでいた。
こいつは仕事面では真面目だったが、あまり私の事を良く思っていない様子が見られていた。
――思いつくところとしては、私の弱みを握るつもりか、もしくは気に食わない主への報復行為といったところだろうか……
男は私の身体にかかっていたシーツを捲った後も目立った動きを見せず、ただ静かな時間だけが流れていった。
肌寒くなってきた私はくしゃみでも出そうで、寝た振りを続けるのも難しくなってきた頃だ。
ようやく男がベッドに身体を移し、その重みでミシリと寝台が音を立てた。
使用人の男は、私の衣類を脱がせ始めるつもりのようだった。
勿論、私は寝台にどっしりと体重を預けて、男に協力してやる事など無かったので、私の身体を持ち上げながら服を剥いでいくその作業は大変そうであった。
――私が寝台横に置かれているランプを侵入者の男の頭に叩き付けなかったのは、偏に男の行為が不器用なたどたどしいものだったからかもしれない。
要領悪く時間をかけて衣類を剥ぎ終わると、男はぎこちない手つきで私の素肌に触れた。
男の掌は体温が高く、私の冷えた肌には熱く感じられる程だった。
その慣れない手つきから、この使用人は同性との行為は初めてなのではないだろうかという感想を私は持った。
触れても私が起きる気配が無い事を安心したのか、男の手は私の身体の表面を自由に這い回るようになった。
加減が分からないのか、それは少々強引な時もあり、身体の弱い箇所等は少々痛みを伴わされた。
無骨な指が乳首を強く捩り、ヒィッと鋭い呼吸が耐え切れずに私の喉から洩れた。
そうすると、恐れるように男の手は私の身体を離れ、だが、またしばらくするとぎこちない愛撫に戻ってくるのだった。
「……ふぅっ、ひ…ぅ、ん、ン……っ」
不器用そうな手管はともかくとして、その男の熱に煽られるように私の呼吸は乱れていった。
鼻で鳴くような吐声が洩れてしまい、その私の反応で男は弱い部分を探り当てていき、面白がるように何度も過敏な箇所を嬲る事を繰り返した。
いつしか私の自室は、淫らな吐息と水音が満ちている。
私は寝台に仰向けで脚を開かされた姿勢で、その横に身体を並べた男に執拗に中心を嬲られていた。
その部分は立ち上がり、男の格好の玩具となっていた。
無骨な手に追い立てられて、そこは自ら出した分泌液で摩擦を手伝いながら、クチュクチュと卑猥な音をさせている。
情けない反応はそれだけに留まらず、唇も緩みきって、私は泣くような声を絶え間無く溢し続けていた。
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