若い使用人の不慣れな様子と、忙しさの為にしばらく私が性交渉も持っていなかったせいもあって、受け入れは容易にはいかなかった。
まさか私が唐突に目覚めてやって、男に指導してやる訳にもいかない。
やはり、同性との経験は無さそうな男は、軽く解した狭い部位に性急に押し入ってきて、私はその衝撃に息を詰まらされた。
強引に異物を体内に捩じ込まれる行為は、時間と痛みを伴った。
歯を噛み締め苦悶を漏らしたのは私だけでなく、私の上に乗っている男も同じのようだ。
あまりに不器用な性交に、私は学生の時分にでも戻ったかのような錯覚に陥りそうだった。
しばらくは眉根を寄せてきつい圧迫感に耐えていたが、苦しさが治まってきた頃、男はゆるゆると動き始めた。
眠りを覚まさないように努めている為か、男の動きはもどかしくなる程、緩やかな優しいものだった。
興奮しているらしき乱れた息が上から降り、私自身もその息に重ねるように呼吸を返していた。
人間二人分の緩やかな振動に、寝台が僅かに音を立て続けていた。
寝台の小さな軋み以外は、間近にある互いの顔に交わされる呼吸音だけがずっと聞こえている。
静かな混合は屋敷の中の誰かが部屋に近づいたとしても、気付かれる事は無かっただろう。
それは今この部屋にいる二人以外には知られる事の無い、秘密裏に行われる行為だった。
緩やか過ぎる揺さぶりが延々と続き、焦れたように私の腰がくねってしまうと、繋がった身体から笑うような振動が伝わった。
このまま目を開けたとしたら、すぐ面前に男の嘲笑う顔があるのかもしれない。
気に食わない主人の無様な様子を見ては、嗤いが抑えられなくても無理は無い。
――やはり、不満を晴らす為の報復目的だろうかと、もうそんな思案を巡らせている余裕は私には無かった。
緩慢なもどかしい快楽に、私の口から恥知らずな嬌声が引き出されそうになったが、丁度それを男の唇が塞いだ。
唇と歯の隙間をぬって男の舌が入り込み、私の口腔の中を好きなように味わって回った。
「ん、くぅ……ふぅっ、ぅン……」
私は長い口交を受けながら、男が達したものを私の狭い器官と腹の内に排出しているのを感じていた。
送り込まれるそれを手足の先をひくひくと痙攣させて受け入れ、私自身も男の手によって呆気無く遂情を果たしていた。
その後も男は身体から離れず、何度も唇を合わせてしばらく私の口を貪り続けていた。
行為の後、使用人の男は私の身体を拭き清める事や、体内に出したものの処理まで従僕の丁重さでこなし、脱がせた全ての衣類を私に着せた。
その間、私は男のするままにさせて、ひたすら寝台にだるく寝そべっていた。
ご丁寧にどこかから新しいシーツも持ってきて取り替えて行ってくれたので、また快適に眠る事ができた。
若い使用人が自室から去った後、私はまともな理性の戻った頭で、馬鹿な事をしたものだと内省する反面、
男との関係は悪くなかったという感想も抱いていた。
もどかしくはあるが、身体の負担にならない緩やかな優しいセックスに、後始末も全てやってくれたので私は寝ているだけで良かったのである。
私は多忙な日々の性欲の処理に、使用人にとっては日頃の鬱憤を晴らす機会として――
煩わしい感情を抜きにした割り切った付き合いと考えればそう悪いものでは無いというのが、最初の私の感想だった。
□月の裏□ 1 2 3 [4] [5] [6]