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月の眠る夜 5

 
 
 受け入れは柔らかくすんなりとしたものだった。

ゆっくりと身体を進める事に努めたが、男の顔には苦痛の色は見えなかった。

その表情を見ながら深く内部に侵入させていくと、凛々しく上がっていた眉が下がり、端正な容姿は惚けたように緩んでいった。


「ン…ぁっ、あく、ぅぅ……っ」

 これ以上無いというところまで来ても俺はまだ最大限深く入りたい思いに囚われて、しつこく男の腰を抱えて内奥へと捻じ込むように押し付けた。

男の喉から苦しそうな呻きが洩れたが、その秘部は大きな異物を全て受け入れてしまって、熱さと快い締まりで迎えている。

俺はしばらくじっと留まって溶けそうな男の中を味わっていたが、感触に堪え切れなくなった腰が動き出していた。



「ふっ…っぅ、…ふぅ…ン、 ん…っ」

 じわじわとした緩やかな動きを受けて、見下ろす男の顔は切なく緩み、鼻で鳴くような吐声が洩れ出した。

俺はいつも男の様子を窺いながらそっと密かな動作で抱いていたが、今日はどうにも苛々が募り、優しい動きを続ける気にならなかった。


 静かな床擦れと吐息の音量が上がる。

意識が無い男に当たっても仕方がないと思うのだが、仕置きするように乱暴に腰を使った。

 開かせた男の身体に腰を強く打ち当てると、切羽詰ったような男の声が何度も鳴った。

荒っぽくパンと男の尻を打つ音と、激しい抽送にたっぷり中に注いでおいた潤滑油が引き出されてグシュグシュと卑猥な音をさせていた。


 取り澄ました主人が尻を犯されて泣き喘ぐ醜態を、嗤ってやる余裕は今の俺には無い。

俺はそれ以上に見っともなく、汗だくで男の身体に取り付いて必死で腰を振っていたのだから。

滴り落ちる俺の汗と揺さぶられる男の身体から飛び散る汗とが、暗闇に僅かな光を反射していた。


「く、ヒぃ…っ!ひっー…いぃ、ぐぅ…ッ!」

 涙に歪む顔を見ながら、このままでは起きてしまうかもしれないと思う。

それでも苛立ちは抑えられず、激しい勢いに一度抜け出た肉棒を再度乱暴に突貫させた。

男の喉が引き攣った呼吸のような悲鳴を洩らして、硬直した背が反り返る。

同時に内肉もきつく搾られたので、俺まで呻き声を絞り出される羽目となった。




 ―――ふと、血だろうかと思った。


 こいつは、前の屋敷の主である父親似だ。

色が白く長身の外見も、冷めた性格もよく似ている。


 男が幼い頃に、その父母は離婚していた。

俺は男の母親の事や今どうしているのかは詳しく知らないが、少なくとも男やその父親と未だに連絡を取り合っている良好な関係ではなさそうだった。

父親はそのまま独り身で仕事漬けの子煩悩とは言えないタイプだったし、母親とも会う機会の無い男がどうやって育ったかは謎だった。

使用人の婆さん爺さんあたりが面倒を見ていたのかもしれない。


 親父に似ただけかそんな環境のせいかは分からないが、俺達家族が住み込みで屋敷に入った時から、男は冷淡な態度の少年だった。

俺はずっと子供だったので屋敷の使用人連中にはすぐ懐いたが、男とその父親の冷たさには怯えて近付かなかった。

向こうも、五月蝿い餓鬼等には寄って来られたくなかったろうが。
 

 だが俺の親父は、年も食っていた中で金払いの良い職をもらえた事に感謝して、男と主人に愛想を振りまいて頭が上がらない様子だった。 

 親父は穏やかで気の優しい容貌の人間だったが、俺は気性も容姿も似ず、どちらかというと母親似だった。

年取った親父と比べてまだ若く、勝気で我侭なところのある一応は美人の部類に入る女だったろうか。

この母親も屋敷の主人親子には、愛想の良い笑いを絶やさなかった。 ただ、親父とはその腹にある動悸は違っていたが。


 母親は、高校に入りたての御曹司には猫撫で声―男は今も昔も変わらず、興味の無い人間に対して無視を貫いていたが―そして、その父親には甲高い声で媚を売っていた。

子供心にもそれは気味が悪くゾッとするものに感じられて、とても屋敷の主人に気に入られる女だとは思えなかったが、

――都合が良いとでも思われたのか知らないが、何故か一時期だけ屋敷の主人と俺の母は関係を持っていたようだった。



 子供の俺に知られていないつもりだったのだろうが、俺は気付いていた。

親父の仕事時や出かける機会を計って、餓鬼の俺には分からないだろうと口裏を合わせるように吹き込み、憑かれたように母親は主の元に通いつめていた。

 俺は傷付くよりも、ただ肉親である己の母親が気味悪く醜い存在に感じられていたのだった。

親父は知っていたのだろうか…… 母親の不義密通のショックよりも、俺の中では親父への同情の方が上回っていた。


 やはりというか、屋敷の当主にはすぐに飽きられたようで、母親の不義の関係は長くは続かなかった。

それでも、しつこく主に媚を売って言い寄りたい素振りなのを、呆れた目で見ていた事を覚えている。


 親父が死んだ今は生活に困らないお手当てをもらって、あの女は郷里の方で暮らしている。

俺には親父が気の毒に思えて、忌避の対象だった母親だが―― 最近は、あの女が思い出されてならないのだった。



 俺のあの女と同じ血が、同質の存在を求めさせるのだろうか。

思えば、男と青年の関係を知って意識し始めた頃から俺の背信は始まっていたのだ。

餓鬼の頃から主である男を劣情の対象として見続けて、いつしか、あの日の椅子に座った男に触れる青年は、繰り返す夢想の中で自分に摩り替わっていた。


 似た親子の元に、必死になって追い縋っているのだから滑稽にも程がある。

どちらもどう足掻いても届かない月のような存在だというのに。


――いまやあの女は、俺だった。 



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