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月の眠る夜 4

 
 
 主人の部屋には、いつしか早い呼吸が満ちていた。

 男の屈曲して開かれた脚は、痙攣するように震えている。

その両脚を押さえながら、立ち上がる男の中心部を俺は舌と唇でもって好きなように嬲り続けた。

男の反応は脚だけでなく、胸や腹筋にもその反射的な震えは伝わっていた。


「ふぅ……ふぁっ、……んぁ…ぁ」

 俺の口が主人の性器を扱く音に続いて、熱に浮かされたようなどこか艶めいた響きの吐声が鳴る。

それは普段の男からは絶対に聞けない声音だった。

眠りの中で過敏な場所に刺激を受けて、男はどんな夢をみているのだろうか…

男の示す敏感な反応に誘われるようにして、口淫に熱が籠っていった。


 男の欲望を咥え舐るその下では、指で蕾を拡げる動きを繰り返していた。

傷付くことも無く俺を受け入らせる為には、潤滑油を使って十分に解きほぐす必要がある。

本来性器でもない小さな蕾だが、既にそこは柔軟に指を迎えて内部の良さを想像してしまうような収縮をみせていた。

狭い器官を拡げられる過程ですら、男の喉からは苦悶ではなく嬌声が引き出されていた。

 主人の身体をこんな風に慣れさせたのは俺では無い。こいつは俺が触れるより昔から、こうだったのだ。



 この男の秘密を知ったのはいつの事だったかと、記憶が遡る。

まだ俺が屋敷の仕事を覚え始めたばかりの時期だっただろうか――


 当時の屋敷の主は、この男の父親だった。

その頃の男は父親の事業を補佐する役割をしていた。

今は屋敷と事業も息子である男が継いでおり、父親の方は体調面の不良で一線を退いて別宅に隠居している状態らしかったが。


――確か、俺が親父の代理として慣れない仕事をこなしながら夜間制の高校に通う事になる、その少し前の事だ。

 現在でもそうだが、男は友人や知り合いを滅多に屋敷に入れる事が無い。 

それは人嫌いの性格の為か、親しい付き合いの人間がいない為か分からないが、それは徹底していて屋敷に電話の連絡すら無い程だった。


 それが、珍しくも男が屋敷に来客を連れて来た日があった。

来客者は、男やその父親と同じような生まれの良さを感じさせる青年だった。 俺達、使用人家族とは真逆といってもいい。

だから、餓鬼の頃の俺は男の仕事関係の人間か、裕福な家庭同士の付き合いのある人間だろうという印象を持った。

 男はその頃から俺など冷たく無視していたので、「ご友人の方ですか」と聞いたとしても答える筈も無い。

その為、俺はただ黙って男と客を見交わしながら憶測を巡らせるしかなかった。


 珍しい客人は男と同年代位に見え、そして男と違って明るく人当たりの良い青年だった。

しばらく応接室で和やかに談笑を交わした後、青年は男の自室に招き入れられた。

それはこの2階の部屋で、頓着しない気質の男は昔から部屋の場所も内装も変えていない。

 
 当時の俺は、男が部屋にまで入れる珍しい客人に驚いていたのかもしれない。

見た目は整っているが、いつも無愛想で怜悧な男に友人がいて――そしてどんな付き合い方をしているのだろうと、その様子を覗き見たくなったのだった。

 その頃の俺は見習いとはいえ庭の構造ぐらいは分かっていたので、男の部屋の窓側にある植木に登ってみようと思いついた。

もし男に見つかっても、枝の伐採の処理か何かだと思われる。 いや、冷淡な男の事だからそれすらも無く、無視されて終わりかもしれない――

好奇心や悪戯心から、そんな風に考えていた。



 丁度良い庭木を見つけてた俺は、それに上った。

葉や枝が豊富な樹木で、それがまだ小柄な少年だった俺の身体を都合良く覆い隠してくれていた。


 だから、男と青年のいる部屋を覗く事は非常に簡単な事だったのだが――

窓の方を覗き込んだ俺は、二人の姿を見つけても何をしているのか、状況が理解できなくなっていた。


 部屋の窓に揺らぐカーテンの隙間。

そこから、相変わらず冷めた容貌をして、室内の椅子に座っている男が見えた。

いつもと変わらぬ男の前に青年が跪いている。 その手は、男が着ている白いシャツの前を開けていた。

やがて素肌が現れると、淡いその白さは男の着ていた白のシャツよりも視界に浮かび上がるようだった。

餓鬼の俺には事の成り行きが理解できず、ただまじまじとその肌を眺めていた。


 何となくこれが二人の合意による秘めた行為だという事が分かったのは、青年が男の肌に触れ出してからだった。

青年が触れる度、その先の男の肌は面白いように白から朱に変化する。

表情こそ変わっていなかったが、男の顔も地が白いのですぐに火照り赤く染まっていった。


 青年が立ち上がり、座った男に被さるように口付けをした。

男は積極的な態度でも無かったが、青年の行為を抵抗する事も無く、静かに受け入れていた。


 俺の覗き見は見つかる事は無かったが、それを見た俺は怯えるように登っていた木から下りてその場を離れた。

心臓が早鐘を打って、その後しばらくは男の顔を正視できなかったが、男の様子は全く変わらない冷淡なものだった。


 その後も何度か、青年は屋敷を訪れた。

おかげで俺は青年の事もまともに見ることができず、二人を見ないで済むようコソコソと屋敷の中を隠れる羽目になるのだった。


 だから、主人に結婚の話も無いのは仕事の忙しさが理由ではなく、本人にその気が無いせいだと俺は知っている。

冷たい印象ではあるが容姿や財力に恵まれ、異性が擦り寄ってきそうな主の嗜好は女には無いのだろう。


 女との関係は勿論無く、もう訪れる事も無くなったあの青年との関係も切れているとは思うが、行為に慣れた身体からしても主人が付き合っている人間は他にもいるに違いないと、俺は考えていた――




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