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灰被り 6

   
  
 心身を磨り減らすような日々を送っていたジルでしたが、そんなある日、思いもよらない話が舞い込んできたのでした。

お城の王子様の誕生日を祝う舞踏会が開かれるということで、このお屋敷にも招待のお声が掛かったのです。

義父のレイモンドと長男のライナスが出席する予定だったのですが、外見が美しいだけで教養の無いライナスでは恥になるだけだと判断した義父が仕方なくジルに声をかけたのでした。

ジルは公爵様の跡継ぎとして英才教育を受けていましたので、後継人である自分の評判も良くなるだろうとレイモンドは計算したのでした。


 唐突にその用件で呼びつけられたジルは、余計なことを喋らないようにと義父に釘を刺された上で、上等な衣装に着替えさせられました。

髪を整えて宝石のついた帽子を被り、白絹のシャツに上質な仕立ての礼服、よく磨かれた輝く靴に着替えたジルは、今までの不遇の姿から魔法のように美しく変貌しました。
 
その姿を見た使用人たちは驚いて顔を見合わせ、義父のレイモンドは自分が後継人として手厚く面倒を見ていることの証明になるぞとほくそ笑んでおりました。

 
 ジルは綺麗な衣装には興味はありませんでしたが、毎夜心の慰めに思い浮かべる夢想の世界のような美しい舞踏会には行ってみたいと思いました。

その煌びやかな社交界の世界にもう両親は存在していませんが、懐かしく楽しい思い出が蘇ってきて、いつもは青白いジルの頬は薔薇色に上気していました。


 レイモンドは使用人とジルを急き立てて、慌しく舞踏会へ出発する準備を進める最中――

お屋敷のホールに、乱暴な足音とよく響く大きな声が鳴りました。


「おい、一体これは何の騒ぎだ…!?」

 ホールの慌しい喧騒はぴたりと静まり、皆は怯えたように声のほうを振り返っていました。

お屋敷の騒ぎを聞きつけたのか、その場にルークがやってきたのでした。

着飾ったレイモンドとジル、その付き人達まで礼服を纏っている様子を、恐ろしい剣幕で睨みつけていたのです。


「俺に一言の話もなく、何を勝手なことをしているんだ!」

 粗暴で無骨なルークは、ライナス以上に舞踏会は向かないとレイモンドは考え、ルークに話してもいませんでしたので全く事情を知らなかったのです。

ルークは華やかな衣装の面々、特に見違えるほど変貌を遂げているジルを忌々しそうに睨みつけていました。

レイモンドは慌ててルークの機嫌をとるように説明を始め、密かに恐れを抱いているおのれの息子の怒りを宥めることに必死でした。


「……だから、ライナスも今回の招待は遠慮してくれたのだ。 お前も舞踏会なぞ窮屈なだけだろう?

 こういった社交の場は私とジルが行ったほうが、評判も良くなろうし……」

ルークは掴みかからんばかりの形相でしばらく父の説明を聞いていましたが、やがて八つ当たりするようにホールの調度品を蹴り倒すと、乱暴な足取りでホールを出て行ってしまいました。

 レイモンドは安堵のため息、使用人たちは大理石の床に散らばる壊れた家具や陶磁器の片付けのことを考えて、苦いため息を洩らしたのでした。
 
 

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