2ntブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

白兎 2

  
  
 緊張しながらも事の成り行きを見守っていた森の住民たちでしたが、少しずつ今回の事件のあらましが理解できてきました。

白兎が興奮して喚いている言葉から解釈すると……


 鰐さんはいつもの日課通り、森の泉に身を浸して、のんびり泳いだり昼寝をしたりして過ごしていたようです。

そこに、白兎が後からやってきました。

 白兎は一着の衣装しか持っていないので、いつも同じ格好――フードのついた白毛の衣、下も同じ色と素材のハーフパンツです。

今日は少し暖かい日だったので、その格好では暑苦しく、兎はすっかり汗をかいてしまっていました。

そして、白兎も水辺で涼むためにしたのですが――


 白兎は身が軽くすばしこいのですが泳ぎは不得意なので、水辺の近くで足先を少し冷やすことしかできません。

ぷかぷかと水面に浮かんで器用に昼寝をしている鰐さんを見つけると、兎は泳げない自分でも良い方法があるじゃないかと、いつものように迷惑なイタズラを思いついたのでした。

鰐さんが寝ているのをいいことに、その背中にぴょんと飛び乗ってしまって、まるで船代わりのようにして泉で水遊びを楽しんだというのです。

 その話を聞いた時点でよくそんな危ない事をするなと、ぞっとしてしまう住民一同でしたが、逃げ足の速い兎は自分の身が危くなったとしても、すぐに鰐から逃げ果せる自信があったのでしょう。

誰彼構わずイタズラを繰り返している割に、持ち前のすばしっこさのおかげで捕まったことがなく、それが白兎に過剰な自信を持たせ、無謀な行動をさせる要因にもなっていました。

青ざめる住民たちを他所に、白兎は 「自分は何も悪くない。ちょっと遊んでいただなのに!」 といったことを喚くばかりで、反省や恐れの気持ちは全くないようです。

逆に鰐さんを糾弾しだす始末の兎を見て、周囲の者たちは呆れる思いも通り越してしまうのでした。


 一方、沈黙していた鰐さんが自分の言い分を話し始めると、それはまた白兎の話とは違う内容のものでした。

鰐さん曰く――長閑な昼寝の一時を邪魔されたが、それはイタズラ者の兎のすること。

イタズラはいつものことであるし、それだけでは怒ることもない。

 しかし、目を覚ました時にはどうにも背中が痛み、水面には自分の鱗が剥がれて浮かんでいた。 

水遊びどころか、白兎が自分の背中を足蹴にして酷く暴れでもしない限り、こんなことになるはずもない。

 鰐は静かに怒りを募らせながらも、白兎と対照的に落ち着いた様子で淡々と自分の主張を説明するのでした。


 確かに、住民たちが泉のほうに目をやると、青灰色の鱗がぽつぽつと水面に浮かんでいるのが見えます。

鰐の背は硬く丈夫な鱗で覆われていて、その説明の通り、容易なことでは鱗が剥がれてしまうことは無さそうです。


 黙って双方の話を聞いていた森の住民たちでしたが、それぞれの思いは (なんだ、やっぱり兎のやつが悪かったんじゃないか) という結論に固まっていました。

その話の信憑性や態度からして、白兎の方に味方したり、かばってやる気になる者はいないのでした。

 鰐さんは腕組みをして憮然とした様子で構えていましたが、白兎のほうは周囲の冷淡な反応に慌てていました。

周囲の者たちの白けたような冷たい視線に晒される中、兎は自分が悪者にされたくない一心で、よりうるさく騒ぎたてるのでした。

とにかく鰐のほうが悪いのだと嘘でも何でも大げさに訴え続けて、周囲の同情を引こうと必死です。



 そんな兎の様子を眺める鰐さんは、表情こそ変わらないものの、その下で呆れと怒りを増大させていました。
 
当初は自分よりずっと年下の者がしたイタズラだから、叱って素直に謝れば許してやろうぐらいに思っていたのですが、謝罪どころか相手の態度は終始ひどいものです。

それもあることないこと嘘を交えて、森の住民たちの前で自分を悪者扱いされるので、鰐の顔は怒りを通り越して無表情に凍っていました。

 もう愚かな兎を許してやる気は、すっかり消え失せてしまっていたのです。